最後の日

「具合はどうなんだ。…もう大丈夫なのか?」

「……まだ、頭が痛いですけど…。いつまでもこんな格好で表にいられませんもの…。」
そう言って、強がりのように笑って見せたが、足もとはまだおぼつかない様だった。

「…それより、…これは一体、何事なんですの。」
「………今、警察が話してるのを聞いてた限りじゃ、………。……監督が、自殺したらしい。」

「………………ぇ………。」
沙都子が言葉を失う。
……その顔はみるみる蒼白になり、…自らの耳を疑っているのがよくわかった。

「…け、…圭一さん、…それ! 本当ですの?! 何かの聞き間違いじゃないですの?!」
「た、…確かにそう聞いたよ…! 入江先生が睡眠薬で自殺した、って…。」
…沙都子がその場に膝を着き、……泣き崩れる。

「………うそ……嘘ですわ……。……あの、……監督が、……自殺なんて、…そんなの絶対に………!」


そう、自殺なんかじゃない。
これはオヤシロさまの祟りなのだ。
監督は私に優しくしてくれた。だから祟りにあったのだ。

「……………………うっ…………ぐす……。」
沙都子はまだ涙が止まっていなかったが、…落ち着きを取り戻したようだった。


もちろん、沙都子の悲しみは嘘でない。
沙都子に関ったあまりに、監督は祟りにあったのだ。


しかし、それは同時に安堵でもあったかもしれない。
監督が死に、鉄平が鬼隠しにされた。
これで今年の祟りは終わりだ。
今年の犠牲者は、私じゃなかったんだ…。

「…あの夜、……鷹野さんに会ったんだ。……………それで、……見下されたと思って、……俺は心の中で念じたんだ。………お前なんか死んじまえ、…って。」

「……鷹野さんって、どことなくそういう雰囲気がございますものね。…その気持ち、……わからなくもありませんでしてよ…。」
「鷹野さんが死んだの、知ってるか? 昨日の話だ。どこかで焼け死んだらしい。」

「……それ、……本当ですの?! ……死んだんですの……。」


え?………何故?
一人が殺され、一人が鬼隠し。
それで終わりではありませんの?
今年の祟りは、まだ終わっていないというんですの?

よろよろと後退った時、グシャリと、新聞紙を踏みつけた。……新聞? こんなところに……?

……その新聞紙は、…俺が自分の鉈に包んでおいたものだった。
沙都子を背負うため、俺はずっと新聞紙を巻いた鉈をベルトに差していたのだ。
……その新聞紙が、……抜け落ちたのだ。

…なんだ、…びっくりさせるな…。
……屈み、新聞紙を拾った時、………沙都子が………これまでに一度も見たことがないような……信じられない形相をして…硬直していた。
…………目線の先には、俺。………俺のベルトに差した、……鉈。

「………………ひ………………………ぃ………………、」
「……お、……………………落ち着け沙都子。…これは、……違うぞ?」
沙都子は……ガクガクと震えながら…後退る…。

「……………俺じゃない……。…俺じゃないんだ…。……俺じゃ……、」

「……と、…………ひと…ごろし…………ぃ……。」
タオルがはだけてしまったことすら、どうでもいいようだった。
…ただ、ガクガクと震えながら……目の前の殺人鬼から……一歩ずつでも…遠ざかろうと…。

「…沙都子、…落ち着いてくれ。……頼むから冷静になってくれ…。沙都、」

「い、……嫌ぁああああぁぁあぁ…ぁぁあぁ………!」


そう、やっぱり見逃してはもらえなかったのね。
よりにもよって、圭一さんが私を殺しに来るなんて。
でも、それでこそオヤシロさまの祟りなのかもしれない。


だが、あきらめない。
負けるもんか!
殺されるてたまるか!!


生き残れるかどうか…自信はないけど。
最後まで、抗いつづけてみせる!!!


もうすぐ、終わる。
全部、終わる。


そう…ひぐらしのなく頃に