お魎の影響力

「面白いっすね。親戚同士で県議と市議やってんすか。」

「これがズルイんですよ。お互いの名前で事前運動バンバン。片方の選挙中にはもう片方が別に講演会を開いて、二重に選挙運動やってんですよ。堂々と。」
「よくわかんないんすけど、それって公選法違反じゃないんすか?」
「事前運動にならない限り、政治活動は無制限ですからねぇ。…熊ちゃん、そんなんじゃ選対本部付きになった時、大変ですよぅ? 公選法くらいは勉強して下さい。」
「俺、知能犯課は無理っす。バカですから。えっへっへっへ…!」

いたのは園崎県議と園崎市議。
それから…雛見沢の村長もいたな。
……どいつもこいつも園崎家の息のかかった連中か。…面白くないですねぇ。

「お見送りしてんのは…副署長とうちの課長っすね。」

「園崎家絡みの暴力団関係が有力候補ですなぁ。トカレフの山か、ケシの密造工場か。園崎家の隠し資産ってのも捨てがたい辺りです。」
「…大石さん、気持ちはわかるけど! あの祭具殿ってのは古手神社にある神聖な建物で、地元の人間への相当の配慮が必要な建物なんだよ。」
園崎議員から署長に延々1時間に及ぶ電話があったって聞いたけど。…課長、ひょっとして署長に釘を刺されたかな?

「か、課長にお客様です…! えっと、…ぅわ!」
案内してきた署員を弾き飛ばして、紋付袴でヤクザの親分みたいな格好のジジイが入ってきた。……電話だけじゃ飽き足らなくなったかな?

「わしは議員の園崎じゃ!! 責任者を出さんかッ!!! 早ぅせいッ!!」
「ど、どうも…! 私が課長の高杉でございます!!」
「お前の名刺なぞ要らんわ!! お前なんぞ、いつだって閑職に飛ばせるんじゃぞ! それにお前だけでは足らん! 大石とか言う男も呼ばんか!! 神聖な古手神社に捜査令状なんぞを請求しおったバチ当たり者じゃッ!!!」

「も、申し訳ございません…! お、大石はただいま捜査に出ておりまして、なかなか連絡が付き難く…私が代わって承りますので…! ど、どうぞ、おかけください!」

「皆さん、連日の不眠不休の捜査、本当にお疲れさまです。」
「「「ぅおおっす!!」」」
威勢のいい返事が雀荘を満たす。…そこはすでに娯楽場の雰囲気ではない。

「状況は芳しくありません。署長が園崎系議員の恫喝に屈したそうです。
近日中に鷹野殺しは岐阜県警に譲り、村長たちの失踪は行方不明扱いで生活課に委ねるようです。」

ダム戦争の頃、建設重機を壊してやれとか、工事車両を妨害するために検問を設けられないかとか、そんな謀略を親類たちに指示してるところは、私も実際に見ている。

そして、その結果、警察に捕まった仲間たちを釈放したり、あるいはアリバイを作ったり、証拠を崩したり捏造したり。
確かにそういうことを実際に側近たちに指示しているのを見たことがあるし、議員を呼びつけて指示したり、抗議したりしているのを見たことがある。


園崎系議員を通じて、お魎がどれほどの圧力を興宮署にかけることが可能か、それは作中でイヤというほどに描かれている。

「警察は調べんとっちゅとろんが、すったらん、間違いなかんね。」
「……………多分ね。鷹野さんだろうね。」

「当家からのお願いを申し上げさせていただきます。…当家ではこのような世迷言の内容に踊らされて警察と事を交えるのは望むところではありません。……伝え聞くところでは、県警暴対本部の山海氏が、公安部と調整をされていると聞いております。何かの瑣末な口実を切っ掛けに、当家に関連する全てに対し一斉捜査を入れられるおつもりとか。」


警察内部の動きを、殆どリアルタイムで把握している。
いや、それどころか…

「…そんれでな。……大臣の孫、さらったーのを調べるために、東京からはるばる、公安の捜査官が派遣されてくるっちゅう話だ。」
「…公安の捜査官?」
「……大臣の孫の誘拐な、…迂闊にゃ大事にできゃんってことで、警視庁の公安部が独自で調べとるっちゅう話だ。…大仰なこったのぉ。…………………ん? どうした?」

今まで、話に何の興味も示さず、ずっとお絵描きをしていた梨花が、公安の話が始まった途端に、お絵描きをやめ、興味の表情をお魎に向けた。

「……警視ちょーが、来たのですか?」
「ぉぅぉぅ…梨花ちゃまは警視庁も知ってなさるんかい。…偉いのぉ。」

「…………………誰が来たのですか?」
「……公安のどんなヤツが来よったんか、…誰ぞ、わかるやつはおらんかいな。」
魅音の父親が小さく挙手をする。

「………新米の若造がひとり、と聞き及んでおります。」

「……新米? ほかほかなのですか?」
「…ん?…んふふふ! えぇ、はい。…新米とか。」


警察内部でも伏せられている秘匿情報まで入手している。


無論、それだけでヤク中を犯人に仕立てることが可能であったということを証拠立てることにはならない。偶々事故で死亡したヤク中がすでおり、その供述書だけを捏造したのか、あるいは全然関係のないヤク中を、その目的のために殺したのか。前者と後者では、必要となる「影響力」の度合いが段違いだ。私は前者であると考えるが、もちろん確証はない。


ただ、これだけは言える。


警察への強い影響力を持つ、そのことが作中でこれほど明白に描かれているのはお魎しかいないのだと。もしヤク中を犯人に仕立てた黒幕が存在するなら…それがお魎以外の誰かであるというのは極めて考え難い。